昭和のユーモアロマンス小説『コーヒーと恋愛』

年始に一時帰国した際、古本屋でバッタリ出会った一冊『コーヒーと恋愛』。どこか昭和っぽいノスタルジーなタイトルに惹かれ手に取り、遥々マドリードへ連れて帰ったのですが、現地で日本語の本はなかなか手に入らないので「まだ読むのは我慢!」とじっくり温めていました。

ところが、イタリアに続いてスペイン国内で新型コロナウイルスの感染が拡大し、ロックダウン期間に突入。自宅から出れない日々が続き、思っていたよりもずっと早くこの本を開く日が訪れました。

表紙デザインは復刊のきっかけとなったサニーデイ・サービスのアルバム『東京』のジャケットにコーヒーカップが足されたもの。
本の裏面には陽に焼けたシミが。どんな人のもとで眠っていたのか、そっちの物語も気になる。

物語の舞台は、テレビが普及し始めた昭和時代に遡ります。主人公はお茶の間の人気脇役女優であり、プライベートではコーヒー通5人で結成された愛好会「可否会」の一員である坂井モエ子43歳。そんなモエ子の淹れるコーヒーに惚れたといっても過言じゃない8歳年下の夫・べんちゃんは、演劇の世界で夢を追う売れない舞台装置家。つまる所、今でいう「年の差婚」「格差婚」の二人。

けれど、この時代には珍しく年下の夫を養い、甲斐甲斐しく世話を焼くことに幸福を感じているモエ子。自分の貯金で「ベンちゃんを演劇の本場ヨーロッパへ連れて行ってあげたい」と夢見るほど。が、しかし。べんちゃんが突然の〈生活革命宣言〉!同じ劇団に所属する19歳の女優の卵、アンナの元へ去ってしまう・・・

昭和の流行作家・獅子文六によって1962年から読売新聞で連載された恋愛ユーモア小説で、ロックバンドのサニーデイ・サービスが90年代に発売したアルバム『東京』に収録されている「コーヒーと恋愛」をきっかに、2013年にちくま文庫から再び世に送り出されたというこの作品。一言で、かなり面白かったです。

嫉妬や裏切りへの怒りを忘れるほど清々しく、コミカルで痛快に描かれたモエ子の恋愛模様。当時の都会的な人たちの生活様式や価値観、マニアによるコーヒー愛溢れまくりの会話。フランス留学経験があり演出家として演劇の分野でも活躍していた作者自身の西洋・大衆文化に関する知識の豊富さ、時代の古さを全く感じさせない文章の軽やかさ。”モダンでお洒落”そんな形容詞がハマる一冊でした。

Kindleでも読めますので、外出自粛中の「おうち時間」にぜひどうぞ。もちろんコーヒーをお供に。

 

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