レバノン出身のスイス系フランス人女優、デルフィーヌ・セイリグ(Delphine Seyrig 1932-1990)。ここ数年彼女の名前を耳にする機会が増え、手に取ったのが1961年公開の『去年マリエンバートで(L’Année dernière à Marienbad)』でした。
ヴェネツィア国際映画祭で金熊賞を受賞したこの作品から女優として活躍し始めるデルフィーヌですが、私が興味を抱いたのは彼女が“スクリーンの中の人物”だけに収まらなかったという点。70年代以降、彼女は女優として、そして監督、フェミニスト/アクティビストとして活動をスタートさせるのです。
デルフィーヌ・セイリグL’Express
フランス・リールの美術館LaMからバトンを受け、現在マドリードのソフィア王妃芸術センターにて開催中のエキシビション「Musas Insumisas」は、70年代および80年代のデルフィーヌとフェミニストビデオコレクティブ(ビデオ集団)に焦点を当て、フランスの映画・ビデオ・フェミニズムの交差点を探るという内容のもの。
これは行かなきゃ!と、先月末に同美術館を訪れてきました。
視聴覚メディアを多用した展示方法でフランスにおけるフェミニスト運動の歴史や政治的混乱(フランス内外)、デルフィーヌと女優のジェーン・フォンダ、映画製作者のバベッテ・マンゴルト、詩人・画家のエテル・アドナン‥etc‥との活動を一つひとつ立ち止まりながら見ていく流れなのですが、興味深いものばかりでなかなか先へ進めず。同行した夫がポツリと呟いた「フェミニズムの旅だね」という言葉がまさにぴったりでした。
Musas Insumisas/Museo Reina Sofía
フランスの中絶禁止法廃止を求め、あのサガンらと共に署名運動「343人のマニフェスト(Manifeste des 343)」に参加したり、フェミニスト団体「服従しないミューズたち(Les Insoumuses)」を結成しフェミニストビデオ・映画を制作したり。『去年マリエンバートで』では世間に蔓延る〔理想の美しさ〕を彷彿とさせ、私の中ですっかりそのイメージが形成されていたデルフィーヌですが、フェミニストの旗を掲げてからはというと完全にその殻を脱ぎ捨てた状態。別人というか、これが彼女本来の姿だったんだなぁ、と。
男性社会に媚びず声高々に闘ったデルフィーヌの勇敢さに感服すると同時に、今は亡き彼女の足跡をさらに辿りたくなる濃縮された展示内容でした。早速年内に『マゾとミゾは船でゆく』『ロバと王女』『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』といった作品たちも観てみたいと思います。
『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』
Musas Insumisas
ソフィア王妃芸術センターにて2020年5月23日まで。料金:€8(常設展入場料に含まれる)
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